スポーツ現場では、肩関節のケガや痛みが起こることがあります。
特に、野球やバレーボール、バスケットボール、アメリカンフットボールなど、投球・スパイク・コンタクトプレー・転倒が多い競技では、肩関節に大きな負担がかかります。
今回は、スポーツ現場で知っておきたい肩のスペシャルテストとして、
- Apprehension Test
- Empty Can Test
- External Rotation Lag Sign
の3つを紹介します。
それぞれ、
肩関節前方不安定性
棘上筋を中心とした腱板機能
腱板断裂
を考える際の評価として取り上げます。
ただし、肩のスペシャルテストも一つのテストだけで診断を確定するものではありません。
受傷機転、疼痛部位、ROM、筋力、圧痛、動作などと組み合わせて評価することが重要です。
肩の評価では「何が起きたのか」を考える
肩関節を評価するとき、まず確認したいのが受傷機転と症状です。
例えば、
「コンタクトプレーで肩を強くぶつけた」
「転倒して手をついた」
「腕を上げた状態で相手に引っ張られた」
「投球を繰り返して肩の痛みが出てきた」
など、状況によって疑う組織が変わります。
また、
- 肩が外れそうな感じがする
- 腕を上げると痛い
- 力が入りにくい
- 引っかかる感じがする
など、選手が訴える症状も重要な情報です。
そのため、
受傷機転 → 症状 → 視診・触診 → ROM・筋力 → 必要なスペシャルテスト
という流れで評価することを意識します。
① Apprehension Test
最初に紹介するのは、Apprehension Test(アプリヘンジョンテスト)です。
主に、肩関節前方不安定性を評価する際に用いられます。
特に、肩関節前方脱臼や亜脱臼を経験した選手、コンタクトスポーツやオーバーヘッドスポーツの選手などで重要になるテストです。

何を見るテスト?
一般的には、肩関節を外転・外旋位にして、前方へ脱臼しそうなストレスを加えながら、選手の反応を確認します。
ここで重要なのは、単純な「痛み」だけを見るわけではないということです。
選手が、
「肩が外れそう」
「怖くてこれ以上動かせない」
というような不安感・恐怖感を訴えるかどうかを確認します。
これがApprehension(不安・恐怖)です。
陽性では何を考える?
肩関節を外旋方向へ動かした際に、単なる痛みではなく、脱臼・亜脱臼に対する明確な不安感が再現される場合には、前方不安定性を疑う材料になります。
研究では、Apprehension Testは前方肩関節不安定性に対して比較的高い特異度を示しており、陽性の場合に不安定性の可能性を高める情報として利用できます。
ただし、痛みだけで陽性と判断すると解釈が変わる可能性があります。
そのため、
「痛いのか?」
だけではなく、
「外れそうで怖いのか?」
を確認することがポイントです。
② Empty Can Test
2つ目は、Empty Can Test(エンプティカンテスト)です。
主に、棘上筋を含む腱板機能を評価する際に用いられる代表的なテストです。
棘上筋は、肩関節の外転に関わる重要な筋であり、投球やスパイクなど、腕を頭上に挙げるスポーツでも重要になります。

何を見るテスト?
一般的には、肩関節を約90°外転させ、肩甲骨面上で腕を挙上した状態から抵抗を加えます。
このとき、
- 痛みが出るか
- 筋力が低下していないか
- 左右差があるか
などを確認します。
特に、痛みだけでなく筋力低下があるかどうかを見ることが重要です。
陽性では何を考える?
Empty Can Testで痛みや明らかな筋力低下が認められた場合、棘上筋を含む腱板の問題を疑う材料になります。
ただし、Empty Can Testで痛みが出たからといって、すぐに「棘上筋損傷」と判断することはできません。
肩関節周囲には多くの組織が存在しているため、他のテストやROM、圧痛、筋力評価などと合わせて判断します。
また、研究ではEmpty Can Testは棘上筋の問題を評価する際に利用されていますが、単独で腱板損傷を確定できるほど診断精度が高いわけではないことも示されています。
そのため、
「Empty Can Test陽性=棘上筋損傷」
と単純に考えないことが重要です。
③ External Rotation Lag Sign
3つ目は、External Rotation Lag Sign(外旋ラグサイン)です。
これは主に、棘上筋・棘下筋などを含む腱板の機能低下や断裂を疑う際に使用されるテストです。

何を見るテスト?
検者が選手の肩を外旋位まで持っていき、その位置を保持するよう指示します。
その後、検者が手を離したときに、
選手がその外旋位を維持できるか
を確認します。
もし自分で外旋位を保持できず、内旋方向へ戻ってしまう場合には「ラグ」が認められます。
陽性では何を考える?
外旋ラグが認められた場合、腱板、特に棘下筋などの機能低下や腱板断裂を疑う材料になります。
External Rotation Lag Signは、腱板断裂を「rule in」する方向の評価として注目されています。
2024年に発表された肩の身体診察に関する系統的レビュー・メタ解析では、特に90°外旋位でのExternal Rotation Lag Signが腱板断裂に対して高い診断オッズ比を示しました。
しかし、ラグがある=必ず腱板断裂ということではありません。
肩のスペシャルテストは「痛み」と「不安感」を分けて考える
肩の評価で特に覚えておきたいのが、痛みと不安感は同じではないということです。
例えばApprehension Testでは、腕を外旋方向へ動かしたときに、
「痛い」
という選手と、
「肩が外れそうで怖い」
という選手では、意味が異なる可能性があります。
前方不安定性を評価するときには、単なる疼痛誘発だけではなく、選手が感じている不安感や恐怖感にも注目します。
これはスポーツ現場で選手とコミュニケーションを取るうえでも重要だと思います。
オーバーヘッドスポーツでは動作も確認する
野球やバレーボールなどの選手では、スペシャルテストだけではなく、実際のスポーツ動作を見ることも重要です。
例えば投球動作であれば、
- 肩関節の可動域
- 肩甲骨の動き
- 体幹の回旋
- 股関節の動き
- 投球時の痛み
- 筋力
- 左右差
などを確認します。
肩の問題があっても、必ずしも肩だけに原因があるとは限りません。
下肢や体幹の機能が肩への負担に影響していることもあります。
そのため、スペシャルテストだけで選手の状態を判断しないことが重要です。
急性外傷では無理にテストをしない
肩関節の外傷直後には、強い疼痛や腫脹、脱臼・骨折などの可能性があります。
明らかな変形がある場合や、強い痛みで動かせない場合、神経・血管症状が疑われる場合などには、無理にスペシャルテストを繰り返すべきではありません。
特に肩関節脱臼が疑われる場合には、現場で無理に整復しようとするのではなく、適切な医療機関へつなぐ判断が重要です。
ATにとっては、テストの手技を知っていることだけではなく、
「今は評価を進めるより、医療機関への搬送・受診を優先すべき」
と判断できることも大切です。
ATとして大切なのは「なぜこのテストをするのか」
今回紹介した肩のスペシャルテストは、スポーツ現場で肩を評価するための一つの手段です。
しかし、スペシャルテストをたくさん覚えれば、それだけで評価ができるわけではありません。
僕自身がATの勉強をしていて大切だと思うのは、
「なぜ今、このテストをするのか?」
を考えることです。
例えば、
「投球後から肩の痛みがある」
↓
「どの動作で痛いのか確認する」
↓
「ROM・筋力・圧痛などを評価する」
↓
「腱板などの問題を疑う」
↓
「必要なスペシャルテストを選択する」
というように、評価の一つひとつに理由を持たせることが重要です。
スペシャルテストは「答え」ではなく、選手の状態を知るための情報の一つです。
まとめ
今回は、スポーツ現場で知っておきたい肩のスペシャルテストを3つ紹介しました。
① Apprehension Test
→ 肩関節前方不安定性を評価する際に用いる。
② Empty Can Test
→ 棘上筋を含む腱板機能を評価する際に用いる。
③ External Rotation Lag Sign
→ 腱板機能低下や腱板断裂を疑う際に用いる。
肩関節のスペシャルテストは数が多く、今回紹介したもの以外にもさまざまなテストがあります。
しかし、重要なのはテストをたくさん知っていることではありません。
受傷機転や選手の訴えから可能性を考え、
「何を疑っているのか」
「そのために、なぜこのテストを選択するのか」
を説明できることが大切です。
また、肩のスペシャルテストは単独で診断を確定するものではありません。
問診、視診、触診、ROM、筋力、動作評価などを組み合わせ、必要に応じて医療機関につなげることがATとして重要な役割になります。
僕自身も、テストの名前や手順を暗記するだけではなく、選手の状態から必要な評価を組み立てられるトレーナーを目指して勉強していきたいと思います。
参考文献
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³ Hanchard NCA, Lenza M, Handoll HHG, Takwoingi Y. Physical tests for shoulder impingements and local lesions of the shoulder. Systematic review and meta-analysis.